ロケットボーイズ

ロケットボーイズ
Homer H. Hickam, Jr., Rockey Boys: A Mimoir, A Delta Book, Dell Publishing (a division of Random House, Inc.), ISBN 0-385-33321-8, January 2000, pp.368, with 8 pages of photographs.
 この本の主題は二つあるように思う。一つは、ウェスト・ヴァージニアというアメリカでも有数の貧困地帯からの脱出物語。コールウッド(Coalwood)といういかにも炭鉱町らしい町からいかに脱出するかと考えている高校生たち。こんな町にいて炭鉱夫として一生終わりたくないというのが高校生たちが思っていることだ。ここの高校というと、近隣の高校からも底辺校と見なされていて、アメリカンフッドボールの選手として名をあげて、大学のフットボールチームから奨学金付で声がかかることでもないかぎり、大学進学はおぼつかない。ロケットをあげ始めた少年たちには、これでサイエンス・フェアの大会に出れば、なにかの奨学金が得られて大学に進学できるかもしれないと期待が生まれる。
 今一つは、スプートニク・ショック(世界一のはずのアメリカの科学・技術がソ連に先を越された)が一般の人々にどのような影響を与えたか示していることだ。1957年10月にソ連が世界最初の人工衛星を打ち上げたことで、高校生はロケットを打ち上げ始める。彼らは町でロケット・ボーイズと呼ばれるようになる。その工夫の物語がこの本のメインなストーリーだ。地元の高校で学力中心主義のカリキュラム再編があったという事実もスプートニク・ショックの影響だろう。本当かどうか、本では、著者でロケット・ボーイズたちの中心たる主人公が、サイエンス・フェアの全国大会に出るためのよそ行きの服を買いに地方の中心都市に出ていったときに、ちょうど大統領選のキャンペーン中のケネディ上院議員の街頭演説に出会う。そこでケネディに宇宙政策について質問すると、逆に君はどう思うといわれて、人を月に送るべきだと答える場面も出てくる。
 ロケット・ボーイズたちのロケットは、サイエンス・フェアの全国大会に出品されて金と銀のメダルをとるが、現実は厳しくてこれで少年たちに奨学金が提供されたわけではない。しかし、ロケット開発がやれたという経験が、苦学しても大学に通えるだろうという自信を与えて、結局皆が進学して町を出る。その一部は空軍に行ってそこからいわゆるGIビルで大学に進学した。ロケットが大学への道を開いたわけだ。
 とてもすがすがしい物語だ。原著が最初に出たのは1998年。すでに翻訳も出ているが、原著の英語も非常に読みやすい。Rocket Boysとして最初に出され、すぐに映画化され、その映画の題名に合わせたOctober Skyという名前でも本が映画化後に出ている。
Homer H. Hickam, Jr., October Sky: A Mimoir (Originally published as Rocet Boys), Island Books, Dell Publishing (a division of Random House, Inc.), ISBN 0-440-23550-2, February 1999, pp.428.
翻訳:ヒッカム・ジュニア,ホーマー『ロケットボーイズ』上・下、武者圭子訳、ISBN:上4794209371・下4794209452、上293頁・下321頁、草思社 (上2000.1.5、下200.2.1出版)、各\1,800(税別)
映画はユニヴァーサル映画が1999年度に映画化。日本での公開は2000年初頭。原題はOctober Skyで日本語名は「遠い空の向こうに」。上映時間は1時間48分。