劇「石棺」

チェルノブイリ原発事故を劇化した劇「石棺 チェルノブイリの黙示録」を見てきました。場所は、高円寺の「座・高円寺」の地下2階です。

チェルノブイリ原発事故が起こって現場にもっとも早く駆けつけたジャーナリスト(ヴラジミール・グーバレフ)が、事故後二ヶ月で書き上げた戯曲です。調べてみると、ロシア語から翻訳が原作が出てから間もなく、ロシア語の自然科学書の翻訳で有名な金光不二夫さんによって翻訳されています。
『石棺 チェルノブイリ』(金光不二夫訳、リベルタ出版)。しばらく、品切れでしたが、福島第一原発事故後に復刊されていまは容易に入手できます。ロシア語で読みたい人は、http://lib.ru/PROZA/GUBAREW/sarkofag.txt#0 で読むことが出来ます。
日本では、すでに俳優座が1989年に、この金光訳を使ってこの劇を上演したとのことです(千田是也演出)(http://nappy.gn.to/teatro.htm)。

今回は、靑井陽治という演出家の方が、英訳から日本語の脚本をつくったそうです。舞台後方に番号のついた仕切が10の病室を表し、その前の広間で劇が展開、登場人物は客席の通路から舞台に登場し、舞台の裏への出て行くます。モスクワのユーゴ・ザーパド劇場でみた劇(「石棺」ではありませんが)の演出を思い出しました。青井氏の演出は気に入りました。


劇は、緊張感溢れる二場もので、モスクワ放射線研究所が舞台です。研究所では、大量の放射線を浴びた患者の治療を研究しています。いまは、被曝後、500日近く生存している患者が一人(ベススメルトヌイ(不死身)と自ら改姓)。そこに三人の新しい実習生が来ます。

突然にベルが鳴って、やがてチェルノブイリの原発事故で大量の放射能を浴びた患者達が担ぎ込まれ、10室の病室はいっぱいになります。原発所長、消防士、消防隊長、隊長付の運転手、物理学者、放射線測定技師、制御士、近隣の農夫、たまたま通りかかった自転車に乗る泥棒。それを治療する医師達。そして事故を調査する査問官。1949年のソ連最初の原爆実験以来、放射線障害治療を専門にしてきたという女医さん役の人の演技が印象に残りました。チェルノブイリを事故直後に訪れたアメリカ人医師(ロバート・ピーター・ ゲイル)がカイルという名前で出てきます。

患者同士、患者と医師、査問官と患者の会話から、チェルノブイリ原発事故の発生の背景が明らかにされます。ノルマ超過達成のための突貫工事による原発建設。最新の原発なのに放射線測定の装置は30年前の古い計器の使い回し。余って安いと言うだけで、「経費節減」のために燃えやすい建材でつくらた建屋の屋根。決して上の指示に逆らわずにやって長になり、事故時には住民避難でなく孫の避難を第一に行った原発所長。反対に原発事故を食い止めるために放射能を知りながら、職業的な使命感から現場に残った制御士や物理学者。


来週の14日まで上演しています。観劇をお勧めします。

なお、劇団昴は、2010年の8月に初演した「イノセントピープル」というマンハッタン計画にかかわった5人の若者の戦後65年を扱った創作劇を、来年130日から23日に再演するそうです。
http://www.theatercompany-subaru.com/public.html をごらん下さい。