イノセント・ピープル

826日の夜、アメリカで原爆開発にかかわった5人の科学者・技術者たちの戦後を描いた「イノセント・ピープル」という劇を見た。
 戦後もロス・アラモスに残り、家族をもったブライアン・ウッドという物理学者(この人物自体は架空です)が主人公。舞台はロス・アラモスの研究所開所20周年の19634月に、かつての仲間達が妻やガールフレンドを連れて集まるところから始まる。ケネディ大統領が暗殺される直前で、アメリカはすべてがうまく行っているように見えた時代だったが、かつての仲間もブライアン一家もすべてが順調に見える。そこから、舞台は、19457月の最初の原爆実験の前後や1976年、2002年、2010年と現在までを、行ったり来たりしながら、原爆開発にかかわった若いアメリカ人の科学者・技術者たちの20代から80代までを追っていく。主人公ブライアンの息子・娘は、やがて主人公の意向とはおよそ反対の道を歩むことになり、たよりの妻にも最後には先立たれてしまう。
 パールハーバーがあったから日本に原爆が落とされても当然、謝罪する必要は全くなく、原爆投下で日本が降伏したので100万人のアメリカ将兵が救われた。英語が通じない日本人は、みな同じ顔をもった無言のサルのような存在に見える(それを日本人役が仮面をつけて無言という形で表していました)というように、強烈な台詞が次々に出てくる。とくに海兵隊の軍人として一生を送ったグレッグの台詞は、とくに「明快」でインパクトがあった。原爆開発にかかわった普通の「善良なる」科学者・技術者たち(イノセント・ピープル)が何をどのように考えて戦後を過ごしたかを、二時間の劇に見事にまとめていた。
 短い劇の中には、原爆開発中の被曝事故、プロトニウムを使った人体実験、ウラン採掘に関わったナバホ族の被爆問題、イランでの劣化ウラン弾問題などがさりげなく取り入れられている。脚本づくりには、東京電機大学にいる科学史家の田中浩朗さんが協力しているので、歴史的にも十分に正確だ。脚本は、青森県在住の公立高校教諭でもある畑澤聖悟という劇作家のてになるもので、私が見た回では劇の後に畑澤氏へのインタヴューと挨拶があった。
 劇は8月29日(日曜日)まで、池袋駅東口から徒歩8分の「シアターグリーン」で、「劇団昴」という劇団がやっています。上演期間は短いが、機会があれば、観劇を勧める。
 http://www.theatercompany-subaru.com/3rd.html 
一般 4000円(全席指定) 問い合わせ電話 03-6907-9220