映画「バンクーバーの朝日」

 戦前の日系カナダ人の社会を描いた映画です。カナダ移民の2世たちがカナダのバンクーバーで「朝日」という野球チームをつくります。昼の辛い仕事のあと、夕方から集まってきて野球の練習をします。夏にすると試合の季節になりますが、日系人からすれば大男ぞろいの白人チームにはどうしても勝てず、いつも最下位の弱小チームでした。それがバントと走り、それに頭脳的な試合運びで、自分たちの強みを生かす試合運びにしてもよいと思い切ったときに勝てるようになります。強引に科学史にひきつけて言えば、後進国の日本の科学がどういう研究戦略をとれば、国際的なレベルで戦えるかと考えた眞島利行のような明治の最初の研究者世代を思わせます。しかし、日米開戦で暗転、日系人たちのその場所から追い出されて収容所入りすることになります。
 映画は、収容所入り以前の日系人社会を丁寧に描いています。主人公の家が広島県からの移民であることは、父親が広島に送金していることからわかります。白人からの差別も多くの場面で出てきます。たとえば、主人公の妹は、ハイスクールでトップの成績で、大学への奨学生の候補になりながら、日本人だからと外されます。
 外国ロケはせず、セットはすべて日本でつくったといいます。バンクーバーの日本人町は、栃木県足利市に50軒の建物と野球場からなるもので構築。当時の日系人の主な職は林業と漁業。職場の製材所は、埼玉県飯能市の製材所を借り、漁港の撮影は千葉県の鋸南町(きょなんまち)に漁港のセットをつくるといった具合です。セットはそれぞれ見事なできで、実際もそうだったと思わせるものです。いまの日本映画の実力を見せています。映画館で売られているパンフレットは、カナダ日系移民史の入門書となるような立派なものでした。
 監督は1983年生まれでまだ31歳の若手の石井裕也、2013年に国語辞典の編集者を描く『舟を編む』をつくった人です。主演は朝日軍のキャプテン役の妻夫木聡(つまぶき・さとし)。朝日軍の選手たちは、それぞれにその個性が印象に残るよい演技をしていました。その妹役は、NHKの朝のドラマ「ごちそうさん」や大河ドラマ「黒田官兵衛」にも出ていた高畑充希(たかはた・みつき)。

公式サイト 
http://www.vancouver-asahi.jp