フユヒコ

東京、新宿の紀伊國屋ホールでマキノノゾミの「フユヒコ」を見る。彼の「東京原子核クラブ」を見て面白かったので、そこで知った寺田寅彦をモデルにしたマキノノゾミの戯曲であるこの作品を見た。時代は戦前、昭和9年(1934)の年末の本郷区曙町にある理学博士「寺田冬彦」宅で一週間のできごとが描かれている。劇にある寺田と妻の緊張関係や妻と前妻の子どもたちとの確執は、実際のことだったようだ。といってべつに深刻な劇でなく、喜劇として大いに笑わせた。理研の所長の大河内(劇中では姓は大河内だが、名は正敏でなく正親だそうだ)が出てくるし、北大にいる寺田寅彦の弟子中谷宇吉郎も話題に上る。寺田寅彦の雰囲気や世界がみごとに表現されている。寺田の寺田の息子たちと大河内のやりとりとして「寺田物理学」の評価についての議論もあり、寺田寅彦に関心のある人には必見だと思う。
 寺田の三人の妻を扱った『寺田寅彦 妻たちの歳月』(山田一郎著、2006年、岩波書店)という本が出ているそうだ。ノンフィクションライターの
最相葉月の書評があるが、悪妻といわれた最後の妻が再評価されているとのこと。マキノノゾミの劇でも妻は、けっして悪妻とは描かれていない。

サムライ高峰譲吉

高峰譲吉の生涯を描いた戯曲「サムライ高峰譲吉」が新宿の紀伊国屋サザンシアターで見る。
新聞で偶然に上演のことを知った。数え12での長崎留学から工部大学校在学、ニューオーリンズ万博出張と将来の妻になる女性との出会い、東京人造肥料会社設立、渡米しての米麹によるウィスキー醸造事業と失敗、タカジアスターゼ発見、アドレナリンの結晶化、晩年の日米親善努力など生涯の重要な場面が見事に戯曲化されていた。演ずるのはこの戯曲を書いた品川能正(しながわ・よしまさ)氏の作品の上演のために立ち上げられた「東京ギンガ堂」という劇団。主役の串間保(くしま・たもつ)氏は、高峰譲吉はこんな雰囲気の人物だったのか思わせる印象に残る素晴らしい演技だった。
紀伊国屋サザンシアター
 (
東京ギンガ堂

この後、高峰譲吉が生まれた富山県高岡市(11月22日)など地方公演をした後、来年4月にはニューヨークでも上演するそうだ。

(公演ポスター)