デイトンを後にする日が来ました。
ここしばらく、私は自分の滞在は何だったのかな、などと考えていました。いろいろな見方があって、とても良かったこともあるし、とても後悔していることもあります。それらを全て含めて、この滞在が自分にとってどんなに意義深いものだったかを一言で表すのはとても難しいことです。
最も印象に残ったことの一つは、ここの研究環境がいかに恵まれているかです。特にライト州立大学(Wright State University)のポール・ローレンス・ダンバー図書館(Paul Lawrence Dunber Library)の本と雑誌のコレクションは素晴らしいものでした。この、デイトンの誇る詩人の名を冠した図書館は、必ずしも巨大な図書館ではありません。しかし、私が必要としたものはほとんどそこにあるのです。講読している雑誌の数も限られているのに、私の興味のある分野の雑誌はほとんど揃っていました。また医学部(Medical School)にはまた別の図書館があり、そこの雑誌のコレクションにも大変助けられました。そしてこれらの図書館はオハイオリンク(OhioLink)という、おそらく世界でも最大の図書館のネットワークの一部であり、信じられないほど強力な文献データベースと相互貸出のサービスを提供しています。百以上の文献データベースを利用し、検索した文献のリストをその場で電子メールで送ったり、PDF形式のコピーを即時にダウンロードしたり、また紙のコピーをリクエストしたりという一連の作業を、全てオンラインで、私のオフィスから、あるいはアパートの部屋からさえ利用することが可能なのです。
図書館のネットワークだけでなく、人のネットワークも実に強力でした。まず最初に挙げなければならないのは大学のスタッフメンバーがいかに私を助けてくれたかです。学科のスタッフ、図書館のスタッフ、そして国際教育センター(UCIE; University Center for International Education)などのメンバーはいつも迅速に、そして適切な方法で私をサポートしてくれました。そして、ここの最も素晴らしいことは、人々が全く自由に話ができるということです。フォーマルなもの、インフォーマルなものを含めて、学科内の教官や学生が集まって研究について議論や意見交換をする機会が実に多くあります。時折議論は白熱したものになりますが、それが人間関係にまで悪影響を及ぼすことなどありません。文化として浸透しているのです。さらにこの"自由"は学科の中に限られません。教授や研究者の皆さんは、実に簡単に国中を行き来して互いを訪ね合い、他大学で講義をしたり、あるいは単に研究の話をしに行ったりします。この滞在期間中実に多くの人々 -- 教授、研究者、そして大学院生 -- と出会い、話をし、そして次の研究へのヒントをもらうことができました。彼らは決して一人で研究をしません。彼らはお互いに刺激し合い、時に競い合い、そして新しいアイディアを一緒に生み出しているのです。
デイトンの人々はキャンパスの中でも外でもとてもよい人たちばかりでした。廊下でも街中でも、全く知らない人でも気軽に "Hi" と声をかけてくれます。実際私はこれが大好きで自分からもいつも声をかけていました。多分日本に帰って一番恋しくなるのがこの習慣でしょう。また人々は総じて穏やかでゆったりしているので廊下でぶつかるなんて事はまずありませんが、仮にそうなりそうなことがあれば必ず "Excuse me."と声を掛け合います。 デイトンは都市と田舎とのちょうど良いバランスを持った、実に住みやすい街だったと思います。多くの人々は親しみやすく、自然も豊かです。それでもなお都市の利便性も併せ持っていて、不便に感じることは全くありませんでした。
みな素晴らしい人々ばかりですが、私は特にその中の3人の人に特別に感謝をしなくてはなりません。最初の一人は Pamela Tsang 先生です。Pam は加齢と認知の関係について研究を行っており実に多くのことを教わりましたが、さらに彼女は私の滞在を通じて実に多くの場面で私を助けてくれました。彼女は全く異なる2つの顔を持っていて、いつもはとても優しく穏やかな人なのですが、一方研究や授業では本当に厳しい教授の顔を見せます。その両方が Pam の魅力です。もう一人は日記にも何回か登場した Daniel Weber 教授。私のことをとても気にかけて下さいました。Dan はオハイオの出身で、オハイオを心から愛していることがわかります。彼はこの美しい州の自然の中を一緒に歩くには最高の人です。
そして最後の人物は、言うまでもなく John です。結局この日記の中で John M. Flach 博士の人柄についてゆっくりと書く機会を逸してしまいました。というのは、John と一緒にいればいるほど彼がどんなに偉大な人物かがわかり、それを言葉で表すのがどんどん難しくなるからです。多くの人が知るとおり、John はとても優しい人物です。彼はとても優しく、親切で、そして忍耐強く私に接してくれました。しかしそれと同時に、彼は本当に心から科学を追究してやまない人物なのです。彼は常に考え、世界の本質を発見し理解しようと努力していました。この温厚な人物がひとたび議論になれば本当に熱くなる様子は実に印象的です。私はこの人物からよい影響を受けられたことを願ってやみません。彼は本当の科学者です。私はせっかく上げてもらった彼の肩から落ちないように今後とも努力を続けなくてはならないと思っています。
今日デイトンは雪が降っています。これら全ての素晴らしい体験を背後に残して帰国しなくてはなりません。ライト兄弟の精神が今も生き続ける街に別れを告げる時間です。
素晴らしいみんなに、ありがとう。そしてさようなら。
