神風 - 2000年4月4日


私は日本を出発するときに、日用品を入れた小包を2箱、アメリカの新しい住所に向けて送っておきました。そのうち一つが先週末、そしてもう一つが今日手元に届きました。SAL 便で送った割には早く着いたと喜んでいたのですが、あることが私を困惑させました。

小包の箱(国際ゆうぱっくの箱)の表面はたくさんの日本の切手で覆われて居ました。郵送料金は一箱当たり15,000円程度だったのですが、100円以下の少額の切手が上面および側面にびっしりと貼ってありました。最初に見たときは「おお、日本の郵便局もなかなか味なことをするなあ。アメリカにも外国の切手に興味のある人はいるだろうから、たくさんわけてあげられるな」などと思っていました。しかし、その切手の中の一つの切手を見たとき、ひどく驚くと同時に困惑してしまいました。

あるデザインの切手が、何カ所にも貼ってあったのです。零戦など大戦中の戦闘機と似た形の飛行機「神風号」が、もうひとつ「ニッポン号」と一緒に描かれている切手です。しかもご丁寧に胴体の横には"KAMIKAZE" とローマ字表記付きで。おそらく貼られている切手は全て同じシリーズで発行された「記念」切手なのでしょう。たぶん20世紀前半の歴史の回顧か何かの。その他には「横綱双葉山69連勝」とか「ヘレンケラー女史初来日」とか「棟方志功の活躍」とか「沢村投手の活躍」とかがありましたから。相撲取りの写真や棟方志功の絵の切手を見て喜ぶアメリカ人はきっといるでしょう。しかし「神風号」は -- 「Kamikaze」と名の付いた、戦闘機と似た形の飛行機は -- どうでしょうか。この小包を空港税関で扱った、あるいは私のアパートまで運んできたアメリカ人の郵便局員は、きっとこの切手の山に目を引かれたでしょうが、目を引かれたついでに神風号の切手がたくさん貼ってあるのを見てどう思ったでしょうね。この切手を貼ってくれた(日本の切手をたくさん貼ってくれたところまではとても感謝していますが)日本の郵便局員の人が、なんでアメリカの人が -- "リメンバー・パール・ハーバー" の国の人が -- この切手を見て何を思うか、あるいは何か否定的なことを思う人がいるんじゃないかと想像出来なかったのか不思議でなりません。

私は一応国家公務員ですから切手の発行自体については何も言いません。しかし、もしも仮にこの切手が「戦争の記憶を忘れずに平和を願う」意図で発行されたとしても -- 切にそう願いますが -- ごく普通のアメリカ人が、「Kamikaze」と名の付いた、戦闘機に似た飛行機の切手を見てその意図を間違いなくくみ取ることができるでしょうか?私は誤解される、あるいはアメリカ人の神経を逆撫でされたと思われるリスクの方がずっと高いと思います。なぜわざわざこれをアメリカ行きの小包に貼ったのでしょう?ひとえにイマジネーションの欠如だと思います。「私がこうしたら相手はどう思うだろうか?」という、ごく基本的で、自立した全ての大人が互いを理解するために必要なイマジネーションの。(少なくとも悪意、あるいは悪戯心で貼ったとは思いたくありませんし。)

もちろんアメリカ国内にも戦争に関する様々な議論があることは承知しています。それらについて何か言うつもりは全くありません。ただ私は、この切手をアメリカに送りつけることを好む人間ではないということだけ、言っておきたいのです。

(筆者注:元々の日記では「神風号」が戦闘機であるかのような表現を用いてありましたが、後に読者の方のご指摘により梅室の誤解による誤りであることが解りましたので、該当個所を修正いたしました。詳しくは4月20日の日記をご覧下さい。)


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Hiroyuki Umemuro
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