4月4日の「神風」切手の日記を書いてから、何人かからお便りを頂きました。
先の日記の中で、私は神風号が「戦闘機」であるというような表現を使いましたが、実は件の切手に描かれていた神風号は、民間機だったようです。郵政省のホームページの、件の切手が入っている「20世紀デザイン切手シリーズ・第8集」の記述http://www.postal.mpt.go.jp/kittecolle/20c_des_8.htm によれば、1937年朝日新聞社所属の純国産機「神風号」は、東京(立川飛行場)−ロンドン(クロイドン飛行場)間15,357kmを実飛行時間51時間19分23秒で飛行することに成功、その2年後毎日新聞社のやはり純国産機「ニッポン号」は世界一周という快挙を成し遂げたとのことです。私が日章旗だと思った翼の赤白の模様は実は朝日新聞社のものだったのですね。たしかにそう言われてみれば零戦などが腹に抱いている爆弾は描かれていません。「神風特攻隊」というのは隊の名前であってそこで使われた飛行機は零式や紫電だという私の知識の不足(というより"KAMIKAZE" のキーワードを見た瞬間もう思いこんでしまったこと)が招いた誤解ですね。郵政省によると「20世紀デザイン切手シリーズ」は「我が国の20世紀を象徴し、21世紀へ向けて、夢と希望のある題材を、芸術、スポーツ、科学・技術、世相等の各種ジャンルに求めて」発行されたシリーズ切手だそうですから、当時の日本の技術力の快挙という「夢と希望のある」切手を送って下さったのでしょう。成田国際空港郵便局の方、失礼いたしました。
さて私はあれから、良い機会だと思って何人かのアメリカ人に "KAMIKAZE" という言葉について今のアメリカ人はどう思っているか、について聞いてみました。
彼らは聞くとまず「カミカゼ? ああ、カミカゼパイロットのことね」と答えます。その上で彼らの意見を総合すると(もちろん多くの人数に聞いたわけではありませんから信憑性は限定されていますが)、第二次世界大戦を体験した世代は、やはりいくらかの否定的な感情を持っているようです。当時学校では「カミカゼが来たらどういう行動をすれば良いか」と教えられたとか。それに比べて我々と同じ戦後生まれの世代は、特に否定的な感情は持っていない、ただし名前やその意味(上記の意味での)は知っているとのことでした。ただしもともとの意味(蒙古軍来襲の時に突風が吹いて敵を退散させたという物語)まで知る人はほとんどいないようです。また、やはり軍関係者には否定的な人が多いようだということ、そして、郵便局関係者には軍経験者が多い、と聞いて、私は先日の話を思い出してちょっとぞっとしました。
ただ、今回聞いてみて印象的だったのは、世代に関わらず総じてアメリカの人が "KAMIKAZE = 神風特攻隊" の物語を広く知っていることでした。もちろん、こちらの辞書にも 「Kamikaze: (第二次世界大戦中に)爆弾を搭載し、パイロットとともに自滅的に目標に対して激突していった日本の航空機。またはそのパイロット」(Oxford Paperback Dictionary 3rd ed.)などと書かれていますし、若い世代でロックバンドの名前やバスケットボールチームの名前に使ったりすることも多いようですが、一方で、神風特攻隊の真実について正しく理解しようと言う姿勢が広く見られることが印象的でした。
日本から来た人は、アメリカの書店で、戦争に関する本のコーナーが充実していることに驚かれるのではないかと思います。そのコーナーの中にはたいてい「(第二次)世界大戦」の書架があり、ヒトラーやノルマンディ(D-Day)、沖縄戦線、そして兵器の資料集などとともに"Kamikaze" の本を見つけることができます。(そう、「ひめゆりの塔」の悲劇などを含めて沖縄についての本も多く見られます。) もちろん Amazon.dom などで検索すればもっと多くの本が見つかります。「私は Kamikaze だった」という本まであります。何冊かをぱらぱらと読んでみましたが、総じて、神風特攻隊に何が起こったのか、なぜそうなってしまったのかを冷静に、正確に伝えようとしていることに感銘を受けました。決して敵として批判的だったり感情的だったりせず。特に E. P. Hoyt の "The Kamikazes" は素晴らしい本だと思います。(また、それらの本の中では「神風」の本来の意味についても説明されていることが多いようです。)
またインターネットでは、 Kamikaze's Site http://www1.itnet.pl/~wojmos/KAMIKAZE/main.html ではまだ作成中ながら神風特攻隊について英語で詳細な記述が書かれています。そしてそこではミツビシ・ゼロやカワニシ・シデン、ナカジマ・ハヤテなどが「神風の飛行機」Kamikaze planes として紹介されています。このサイトも特攻隊員の真の姿をきちんととらえようとしてくれていると思いますが、それにしてもやはり Kamikaze と言えば特攻隊の事で、その飛行機と言うとこれらの戦闘機のことになってしまうのだなと思いました。
日本国内では、いろいろな人の立場の違いによって「神風特攻隊」について非常に複雑な感情が存在していることは知っています。私は本を読んだり映画を見るたびに泣いてしまうクチです。中でも今井雅之さんが制作・演出・主演した舞台公演「The Winds of God」は素晴らしく、アメリカの公演でも大変高い評価と共感を得たと聞いています。私は、戦争の悲しい記憶を日本人の間で語り伝えるとともに、こうして他の国の人との間で理解を深めることはとても大切だと思います。ただ、その上でいつも考えなければならないのは、日本に神風特攻隊で肉親を失った人がいるのと同じように、アメリカには"Kamikaze"との戦闘で肉親を失った人々がいることです。そのアメリカで神風特攻隊の悲劇をこれだけ正しく理解してくれようとしているのですから、そういう人たちに変な誤解を与えたり、神経を逆撫ですることは慎重に避けなくてはならないと思うのです。ですから私は先日書いた「神風号」の切手がアメリカ人の目に触れるたびに「これは Kamikaze の戦闘機ではないのだよ」と説明を続けていこうと思います。アメリカ人が読みとれるのは、零戦と同じようなデザインの飛行機とその胴体に書かれた「KAMIKAZE」だけなのですから、歴史や航空機に詳しい人でなければその差異をきちんと読みとれないと考える方が自然でしょう。
さて件の「20世紀デザイン切手シリーズ」の、4月21日発行の「第9集」では、「真珠湾攻撃」の切手が出るそうです。これはちょっと私の力量では説明が難しいですので、私のアメリカの住所宛の郵便物に貼られて来ないことを祈るばかりですが...